第2章 馬車に揺られて


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 あの光は何だ……。
 ……まぶしい。
目がくらんで頭がずきずきするようなまぶしさだ。
 ずっと遠くにあるのに、何故こんなにも頭が痛むのだろう。
 胸が締め付けられるように苦しい。

 シエリは片手でまぶし過ぎるそれを遮りながらも、その光の元を辿ろうとする。すると目の奥にまで突き刺さるようなその光は徐々に弱まり、白かった光が銀色のしなやかな流線を描き始める。澄みきった水の流れのように、キラキラと光を反射するそれは、シエリの胸の内に苦い思い出をよみがえらせた。

 そうか。あれは母上と姉上か。

 分かってから、なおいっそう胸が痛む。シエリはその輝きから目をそらしたくなり、うつむいた。さらりと自分の髪が顔の横に垂れる。それは青みがかった灰色だった。

自分は違う。自分の立場も分かっている。でも……。だからと言って、父のしたことはあまりにひどい。

 絶対にあの場所には帰らない……!

 シエリは、どこまでも膨らんでくる怒りに追い立てられるように、勢いよく顔を上げた。

「わっ!」
「……ルツ?」
 何故ここに、と続けようとして、シエリは激しい頭痛に襲われ、起こした身体を再びベッドに沈めた。目の奥からこめかみに向かって起きる、吐き気を伴う痛みに思わず頭を抱える。
「まだ横になってなきゃだめ」
ルツは、はだけた上掛けを肩までかけてやる。驚いて落としてしまった冷たいタオルを拾うと、シエリの額にのせてやった。
「お酒、飲めないなら飲んじゃだめよ。覚えてる? 昨日の夜、急に倒れたの。びっくりしたわ」
 シエリの様子をうかがいつつ、ルツは用意していた薬草を混ぜ合わせると、小さな四角い紙の上に落とした。
「はい、これ飲んで。ちょっと苦いけど、すぐ効いてくるはずよ」
 頭痛に耐えつつ、うっすら目を開けると、ルツの心配そうな顔が見えた。手には水の入ったコップが握られている。
 シエリはルツに助けられながら何とか薬を胃に入れると、言われるがままに、またベッドに横になった。出発はどうなったのか聞きたかったが、とにかく具合が悪かった。
「だから、あんな夢を……」
「え?」
 ぽつりと言ったシエリは、顔を半分枕にうずめて眠りに落ちていった。ルツは、ひとつため息をつくと、乱れた布団をまた掛け直してやった。





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第2章 馬車に揺られて